2014年1月15日水曜日

道場を辞めた時に書いた文章。あれからもうすぐ1年が経とうとしている。

 道場を辞めた時に書いた文章。あれからもうすぐ1年が経とうとしている。


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 「先生、そろそろ引退しようと思うんです。」 
 電話で、道場を辞めることをそう伝えた。

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 春弥生。陽光柔らかい明るい日であったが、まだ渡る風は肌寒い。久しぶりに道場に向かった。かれこれ2か月近く稽古から足が遠のいており、かつ道場を辞める手続きと挨拶に行くのであるから、楽しくスキップして行ける訳はない。さてどうした顔で行くべきか、と困っていたし緊張もしていた。

 8年間もの長きに渡り、この道場に通った。8年間だよ、まったく。大学時代の5年間よりもはるかに長い。駐在時代の終わりに空手を再開して通ったLAにある道場は、2年間だった。非常に多くの思い出がある駐在生活でさえ7年間に過ぎない。8年間・・・。平日は仕事がある為通えず、土日の休みに熱心に通った。仕事を早めに切り上げてごく稀に金曜の稽古にも出られることもあった。

 俺が始めた頃、小学3年だった息子もこの道場に通わせた。格闘があっていないらしく、嫌がって泣くときもあったんだが無理やり連れて行った。車で25分の距離。息子の稽古が終わり俺の稽古クラスまでは間があったので、近くの公園で、これまた嫌がる息子を付き合わせてランニングし、中々上手くならぬ息子に稽古もつけていた時分もある。彼は本当に嫌そうだったよな。

 土日の二日間と言えども、5-7Kのランニングを1,2カ月でも恒常的に続けると段々に楽に走れるようになる。広々とした公園の樹木を縫って走るのは、しんどいことはしんどいのだが、多少は気持ちがよかった。

 よく息子と走っていたのは、40代後半のころで緑帯の昇級を受ける前だった。緑帯昇級審査の組手は4,5人相手にやったがまったく息が切れなかった。息子は中学受験の為に塾に通い始め、小学5年生で空手を止めた。さぞかしほっとしたことであろう。中学に受からなければ空手を再開させるぞと半分冗談で言っていたから、かなり真剣に勉強していた。息子の稽古に付き合わなくなってから、近くの公園で走ることもなくなった。そうするとスタミナが落ちるようで、その1年後の茶帯審査の5人組手は3人目くらいでへばっていたもんだ。サンドバッグを蹴り過ぎて膝を痛めて間もないころでもあった。審査の3日前はそろーりそろりとしか歩けなかったから、今から思えば年の割には随分無茶をしたもんだ。審査の前、膝の水を初めて抜いた時には驚いた。何と多く出るものか。

 黒帯になったのは今から3年くらい前か。黒帯になり、指導員として皆の前に立って稽古し出してから途端に面白くなくなった。人を指導することは嫌いではないので、やりはするんだが、それよりも俺はもっと空手を学びたかったし、皆の中で共に稽古したかった。

 
 8年歩んだ階段を2カ月ぶりに上り、少しの緊張と申し訳なさを抱き、道場のドアを開けた。

 大勢の子供達がまだ居残り稽古をしている。親御さんたちが廻りを囲み、道場は明るくエネルギーに満ちている。多くの顔がこちらを向き、一応にこやかに俺も眼で挨拶をする。「先生は?」と入り口脇の事務スペースにいる奥さんに尋ねるやいなや、支部長先生が近付いてきた。「押忍」の挨拶。その直後、小さな拳士である子供達が目の前に駆けつけて「押忍」「押忍」の挨拶の連続。俺はと言えば、差し入れに持ってきたジュースの段ボールを抱えたまま、まだ入り口に佇み、少々びっくりしつつ、口だけで「押忍」の返礼をしていた。

 狭い入口スペースは一瞬小拳士達で埋まり、我先に俺の顔を真っすぐ見上げ、「押忍、押忍・・・」最高の見送りだね。

 「まだ稽古中だったんですね。邪魔をしてすみません」
 「いや、勝手に残ってやっているだけです」と、支部長。

 少し歩を進めると、師範代A先生と若手有望株のB君がウェイトトレーニングの途中らしく、ベンチプレス台を出してその脇にいた。歩み寄って握手。彼等は知らされていたから来ていたのだろうか。いずれにしても彼等に最後に挨拶できて本当によかった。A先生には特に後ででもお礼を述べねばと思っていた所だ。
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 明るいよい道場だった。別れの情景は今でも鮮明だ。若手のB君の活躍はたいしたもので、流派のWebを見てその戦績に驚嘆している。A先生も変わらず道場の稽古を指揮しているし、支部長先生は当然変わりなく指導に励んでいることだろう。空手の稽古は同じことを何万回と繰り返す。体に動きを覚えこませ、考えるよりも速く反応するようにする。地味で退屈しようとも継続の大切さを想う。
 辞めて今度は合気道を納めるかと思いつつもダラダラとするうちに、走り出して今に至る。ランニング、自転車、ウェイトトレーニング、近々合気道!? いずれは空手に戻ると思うんだが、空手しかやってこなかったので色々やるべしとする。
 

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